|

だいぶ遅くなりましたが、2013年度まで国立国会図書館の非常勤調査員を務めていた際に開発した、NDL LabSearch Client をオープンソースとして公開しました。

NDL LabSearch Clientは国立国会図書館が運営するNDLラボサーチのUI部分を司るアプリケーションです。このアプリケーションの特徴は、全てのコードがHTMLとJavaScriptで成り立っており、ローカル環境下でも動く点です。そのため、NDL LabSearch Clientのユーザはブラウザとテキストエディタさえあれば、NDLラボサーチのUIを自分の好きなように改造することが可能です。

また、検索サーバとはJSONPで通信を行うため、本アプリケーションはNDL以外のサーバ上にアップロードして動かすことが可能です。NDLラボサーチの代替サービスを誰もが開発して公開することが可能です。理論的にはWordpressやDrupalなどのページ上に埋め込むということもできます。

NDL LabSearch Clientのコンセプトは「ユーザがHackできるディスカバリ・インターフェースの実現」です。図書館情報システムに対する利用者の要求の中には、開発者に伝達することが難しく、完全に要求を満たすことが困難な場合があります。UIのデザインはまさにその最たる例です。UIのように多様な要求が考えられる部分については、特定の開発担当者が努力するよりも、プログラミングができる利用者が直接オルタナティブを開発することで解決するという方法もあります。例えばTwitterではサービス開始当時からAPIをユーザに提供しており、そのため当初は対応が遅れていたモバイル版のTwitterクライアントを他のIT企業が開発・提供することでユーザサポートを補完するという事例がみられました。

ユーザが開発に参加できる図書館情報システムという考え方は2008年ごろにLibrary2.0という用語で既に提唱されています。そして国内ではCiNiiのWebAPIコンテストやカーリルのAPIコンテストなど、既存の図書館系のウェブサービスをマッシュアップして新たなサービスを創造するという活動がみられています。そういう点ではNDL Lab Searchのコンセプトは何も新しくはありません。ただし、これまでのLibrary2.0やWebAPI提供の取り組みは、既存のサービスを利用した「派生物」を開発することが志向されているかと思います。

これに対してNDL Labsearch Client は、どちらかと言えば「代替物」を開発することを志向した取り組みです。NDLラボサーチを利用した全く新しいサービスを創造するよりも、NDLラボサーチを少し改良して、そのユーザにとってより使いやすくしようとする目的に向いています。これは、NDL LabSearch ClientはサービスのUIを決定するイニシアティブをユーザに与えることを意味しています。NDLラボサーチのUIとして何がいいかを、ユーザ自身が提案・提供して、他のユーザに問うことができます。極端なことを言えば公式よりも使われているUIを創造することができます。そのような事態が起こった場合、公式側がユーザの提案したUIを取り込むことで自身のサービスを改善することも起こりえます。先にあげたTwitterでも、このような公式が代替サービスを取り込んでいくという現象が起こっています。

「代替物」の開発を支援する取り組みは、サービス改善のエコシステムが生み出されていることを意味します。現在、ソフトウェア開発のコラボレーションプラットフォームとしてGitHubが注目されています。GitHubの人気の肝は、だれもが簡単にプロジェクトをフォーク(=派生プロジェクトの作成)してプルリクエスト(=派生元に変更を反映することを提案する)できる点にあります。つまり、GitHub上のプロジェクトは誰もが改善案を提出することができます。NDL Labsearch Clientが実現したいことは、図書館サービスをユーザがフォーク&プルリクエストすることができる世界です。そのような世界が生まれることで、図書館はユーザにより開かれた場になるのではないかと思っています。

以上、NDL Labsearch Client の開発の動機やコンセプトについて述べてきましたが、現状はまだソースコードを公開しただけで、その目的達成の道のりはまだまだ遠いです。今後は誰もがカスタマイズしやすいよう、アーキテクチャを改善し、ドキュメントなどをおいおい整備していきたいと思います。以上のお話に賛同していただける方には、ぜひぜひご協力いただければ幸いです。

トラックバック

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
kunimiya 作『NDL LabSearch Client をオープンソースとして公開しました』はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。