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ニッポンの書評 (光文社新書)』を読んでから、自分の考える良い書評とは何であろうかと考えている。

先に上げた書籍は、プロの書評家である豊崎由美氏が良い書評とは何かをセミナー形式で語ったものである。ただ、語られる良い書評とは小説分野に限っている。では小説以外のジャンルはどうなのか?例えば学術書に関していえばネタバレの心配は要らないだろう。一方で書評がガイド的な意味合いを強く持つという点はむしろ学術書など前提知識が必要なジャンルでは小説以上に意識する必要がある。

現時点で私の考える(小説に限らない)良い書評とは、本を読み終えたその先を予見させてくれる書評である。本は物理的には独立した事物だが、知的生産物としては様々な本と網の目状の関連を持っている。だから読書とは単に一冊の本を読むことが重要なのではなく、一冊の本を起点として知識の関連性を想像するということにある。しかしこの網を想像するには一定程度の読書量が必要である。その分野に詳しく無い人やそもそも読書経験自体がまだ乏しい人は読んだ本の関連を上手くつかむ事ができず、面白さが半減してしまう。読者が独自に考える余地を与えつつ、この関連性の網を予見させ想像を誘発させるのが書評の役割なのではなかろうか。

この考えに基づく書評を書くにはなかなか難しい。まず評価対象の本の周辺領域をひととおり押さえておく必要があり、そのうえで書評では単なる粗筋紹介や関連本紹介になるのではなく、それ自体がある領域の解説として機能しなければならない。それでいて、明快な価値観を押し付けてはならない。果たしてこんなことを実現する評者はいるのだろうかと自分でも怪しくなってくる。

しかし感想と書評と批評を線引きするにはこれぐらいの条件が必要であろうし、こうしたはっきりと現れない労苦を引き受けなければいけないからこそプロの書評家という存在が成り立つのだと思う。

と、偉そうに書いている自分は感想文止まりの文章しか書けないのであった。精進します、はい。

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