状況に埋め込まれたブログ


『経済大陸アフリカ』を読んだ

2013年04月20日 - kunimiya
経済大陸アフリカ (中公新書)
経済大陸アフリカ (中公新書)
posted with amazlet at 13.04.20
</p>
平野 克己
中央公論新社
売り上げランキング: 2,582
</p>

時たまテレビ番組で、タレントがアフリカで井戸開発などの開発に協力する様子を観ることがある。私を含めた大体の人はアフリカについて触れる機会というのはこういうテレビを通してでしかない。だからアフリカのイメージは、だいたいテレビ番組の感動の演出に則った形で固定化されてしまう。アフリカといえば貧困に喘ぐ不毛の大地であり、世界中の国々が開発援助を行って立て直そうとしている。アフリカの人々は常に「助けられる人々」であり、先進国は「助ける側の人々」というのがこの種のテレビ番組企画に通底するイメージである。私もまたそう思っていた。

しかし、本書『経済大陸アフリカ』はそんなアフリカのイメージをガラッと変えてくれる。いや、正確にいえばアフリカに手を差し伸べる国々のイメージを変えるといったほうがいいだろう。

本書によれば現在のアフリカは天然資源の輸出によってこれまでとは比較にならない経済成長を遂げているのだという。そして、この天然資源輸出のインフラ構築に最も貢献している国が中国であり、いまや中国とアフリカの間には密接な資源供給ルートが出来上がっているらしい。開発援助という視点からみると、中国の開発援助は2つの点で特異である。1つは、中国の開発援助は資源の獲得という利己的な動機を隠さず、アフリカと対等な関係を結んでいる点。もう1つは、中国は民主主義国家ではないため、これまで他国の開発援助が目標の1つにおいていたアフリカ諸国の民主主義化を目標におかない点である。つまり、これまでの開発援助とは動機も目標も異なる国がアフリカ大陸の経済成長を支えており、開発援助の考え方そのものが揺るがされつつあるのが現状なのだと筆者は主張している。この重要性ゆえに本書では中国の開発援助の話で全体の3分の1のページを費やしている。

アフリカ大陸はもはや不毛な大地ではない。いまや世界中の国々が手を結びたがる資源大国なのだ。

しかしながら、テレビ番組で映された貧困に喘ぐアフリカ人たちが演出されたものなのかといえば決してそうではないようだ。本書は中国の開発援助の後にアフリカ諸国の経済格差と農業政策について解説している。それによれば、アフリカの南部(サブサハラアフリカ) では都市と農村が経済的に断絶されており、都市は発展する一方で農村は一層の貧困に陥っている。都市が発展すれば人口が増え、食料の需要が増加するから農村部の経済も潤うのが普通であり、これはきわめて異常は事態である。なぜこのような事態が起こっているのだろうか。筆者はここで要因を2点挙げている。ひとつはアフリカ諸国の大半はいまだに農業が近代化されておらず、農民自身が食べていけるだけの農作物しか産みだせない。ゆえに都市に農作物を供給するといった経済関係をなかなか持てない。一方で都市は先進国からの食料支援によって農村部からの供給を待たずに食料を確保できている。これが2つ目の要因である。そして、資源の輸出による経済成長が物価を高め、農業の近代化に不可欠な化学肥料がますます農民の手に入らないようになる。このような悪循環がサブサハラアフリカの世界で類を見ない経済格差を引き起こしている。このままでは格差が火種になって内乱や紛争が激化しかねない。この経済格差をいかに埋めるような援助をしていくかが先進諸国や中国の課題となっていくだろうと著者は主張している。これは開発援助というものが慈善だけでは留まらない、自分自身の安全にもつながることを意味する。

そして本書の後半では開発援助という概念や動機の変遷を語り、これから日本の開発援助はどうあるべきなのかを論じている。このように、本書はアフリカについて述べた書籍でありながら、その3分の2がアフリカに対して開発援助を行う国々について解説している。なぜこのような内容になるかといえば、それはアフリカ諸国の現状は開発援助国の事情や援助内容に強い影響があるからである。裏を返せば、アフリカ諸国の現状の問題の解決には開発援助という概念を援助国はどう捉えているのかを再考する必要があるということだ。

最後に著者はこう述べる。

自国のために働くことは利己主義ではない。健全なナショナリズムをもたない人間はどこでも尊重されない。それは開発の基本でもある。ただ、みずからのために働くことがすなわち他者の利益にもなるという事業を設計することがグローバルプレイヤーにはもとめられるのであり、そのための知恵が必要だ。アフリカとの新しい関係はそういった知恵によって構築されていかなければならない。日本はいまアフリカを必要としている。東アジア全体がアフリカを必要としている(p.280)

アフリカは地理的には遠いけれども経済的にはすでに密接な関係があり、これから日本人はもっとリアルにアフリカのことを考えていかなくてはならないのだろう。ここに書かれているような力強い、けれども様々な問題を抱えるアフリカの二面性がテレビ番組でみるアフリカのイメージになっていくのもそう遠くはないかもしれない。


著者紹介

名前:常川真央

筑波大学図書館情報学メディア研究科で図書館情報学を学ぶ。2014年4月より専門図書館員としてとある研究所に勤務。RubyとJavaScript使い。短歌の鑑賞と作歌が趣味です。

業績 : http://researchmap.jp/kunimiya

連絡先: tkunimiya@gmail.com

Twitter: @kunimiya

{ "vars": { "account": "UA-33256229-1" }, "triggers": { "trackPageview": { "on": "visible", "request": "pageview" } } }