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ビブリオバトルでチャンプ本を選ぶことが批判されることがしばしば起こる。このような批判に対して私は、ビブリオバトルの勝敗が本の優劣を決めるものではないこと、チャンプ本を選ぶことで参加者の関心を表出できるというメリットがあると答えて、ビブリオバトルの弁護を試みることが多い。しかし、私はこのような弁護が批判に対応できているのか常々疑問に思っていた。そして、どうしてこのような批判が起こるのか、どうすれば適切に対処できるのか悩んできた。

悩んだ末に私は次のような考えに至った。ビブリオバトルに勝敗の要素があることに批判が集まる原因は、チャンプ本を選ぶ目的が多くのビブリオバトルイベントで不明確だからなのではないか。『[ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』によれば、ビブリオバトルは、本来は輪読会で読む本を決めるために生み出されたゲームであるという。そこでは、ビブリオバトルで選出されたチャンプ本は、その後の輪読会の運営に影響を与えるものとして明確な意義があった。しかしながら、現在のビブリオバトルではチャンプ本が次回のビブリオバトルに影響することはあまりみられない。選挙にしても、以後の政権を握る人物を決めるためという目的が果たされなければ、それは単なる人気投票に過ぎなくなる。そうなれば投票をすることに対して懐疑的になるのは当然だと思う。投票という制度が意味を持つためには、投票目的が何らかの形で実現されなければならないのだ。

もし上のような考察が正しいと仮定して、どのような方法で問題を解決することができるだろうか。個々のビブリオバトルの運営者が何らかのフォローをするということは考えられるが、結局それはビブリオバトル全体の状況の解決には繋がらない。ビブリオバトルのチャンプ本に意義を持たせるには、それに対応するルールを制定する必要があるのではなかろうか。そこで、私は僭越ながら以下のようなビブリオバトルの追加ルールを提案したい。

  1. 発表者は、前回のビブリオバトルで決定したテーマに関連した本を選ばなければならない(初回開催時は運営者がテーマを決定するものとする)
  2. 発表者は、本のプレゼンテーションの中で、紹介する本のキャッチフレーズを必ず述べる
  3. 運営者は、チャンプ本と発表者が付与したキャッチフレーズを次回ビブリオバトルのテーマとして採用しなければならない

上述のルールを、私は「マンデート・ルール」と名づけておく。つまり、このルールを追加したビブリオバトルでは、投票行為は次回ビブリオバトルのテーマを決定する権限を投票対象に委任する行為であるとみなすのである。政治が選挙で選出された政治家に左右されるように、ビブリオバトルの運営はチャンプ本に左右されるのである。このようにビブリオバトルの運営に影響をあたえるようにチャンプ本を位置づけることによって、投票行為の意義を明確化するのがマンデート・ルールの目的である。

ちなみに、ビブリオバトルのテーマがチャンプ本だけでなく発表者のキャッチフレーズも含んでいるのは、その本が紹介された文脈を伝えるためである。本には様々な要素が詰まっているので、本だけをテーマにすれば前回のビブリオバトルとまったく関連性を持たないような本にこじつける危険性が考えられるために、キャッチフレーズという形で文脈情報を付与することにした。

マンデート・ルールは、ビブリオバトルのコミュニティ形成の要素を強化することにも役立つのではないかと考えている。チャンプ本が次回ビブリオバトルのテーマとすることによって、ビブリオバトルの運営に聴衆も参加できるようになり、ビブリオバトルを取り巻くコミュニティについて意識するようになる。たとえビブリオバトルの参加者が毎回変動したとしても、前回のチャンプ本を参照することによって、自分がどのような文脈のもとでビブリオバトルに参加しているのかを意識するようになるだろう。また、マンデート・ルールはどのような規模のビブリオバトルでも継続性のあるものであれば採用が可能であるので、運用の負荷もあまりかからない。

マンデート・ルールはまだ実際に運用したことがないので、このルールが有用であるかどうかはまだ分からない。実際に検証するにしても、長期間の観察が必要であろう。そのため、まずはこのようにブログ記事として公開することで、ビブリオバトルの参加者や運営者に問うことにした。

皆様はどうお考えだろうか。問題の仮説に対する反論や改善策も含めてぜひ意見を頂きたい。

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
kunimiya 作『マンデート・ルール : ビブリオバトル追加ルールの提案』はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。